【読書感想】江國香織さん選「恋愛小説アンソロジー ただならぬ午睡」(オムニバス)"野蛮な短編集"という表現がとてもしっくりくる、ハズレなしの短編集
一流作家さんの短編小説詰め合わせの本。
作者とタイトルは以下。
吉行淳之介「謎」
河野多恵子「朱験」
江國香織「十日間の死」
佐藤正午「夏の情婦」
平林たい子「私は生きる」
チェーホフ「かわいい女」
選んだ江國香織さんのあとがきにこんなことが書いてある。おもしろいのでがんばってタイピングする(笑)
(前略)
おもしろい小説を読み終えたときに似ている。現実がわずかにずれるような感じ。普段いる場所や、そこで起きている出来事、秩序、それらが突然信じられなくなる。現実があやうくなるくらい、鮮やかで強烈なもう一つの世界。
(中略)
男と女の話が、八篇。ますらおぶり、たおやめぶりの、際立った小説を集めた。私は人に本をすすめたことはあるが、恋をすすめたことはない。ただの一度も。恋は人を暴く。一人の男のなかの男性(おとこせい)を暴き、一人の女のなかの女性(おんなせい)を暴く。だからおもしろいし、だから、とても人にすすめられない。
(中略)
本物の動物だけが白骨化する。やすらかに、のびのびと。今回ここには立派な白骨になりそうな男女の話ばかりを集めたので、すばらしく野蛮な短編集になったと思う。
実際読み終えると"野蛮な短編集"という表現がとてもしっくりくる。
恋愛小説集といっても、一般的にイメージする恋愛小説の短編よりは"重い"し、ちょっと読みにくいかもしれない。
特に最初の吉行淳之介さんの作品が結構難しいので、ぼくは脱落しそうになった(苦笑)
2回読んでやっとわかった。そしてわかったらスゲーという感想になった。
これから読まれる方は、吉行淳之介さんの作品で???ってなったら、すぐさま他の作品にうつろう! 他のも全部おもしろいから。
以下、それぞれの作品をネタバレなしでの簡単にご紹介。
☆ ☆ ☆
吉行淳之介「謎」
すでに書いたとおり、ちょっと解釈が難しい作品。ぼくは2回読んでなんとなくわかり、スゲーと思った。簡単に"おもしろい"と言えないようなぶっ飛んだ作品。うまく言葉にできないことを表現するというのは、こういうことを言うのだと思う。だからこそこの作品は感想をうまく言葉にさせない…
河野多恵子さんの「朱験」
誰もが持っている感情の中にある"狂気"などと表現される部分を描いた(とぼくは思っている)作品。よい小説ならではの、"こっちのほうが実は現実なんじゃない?"と思わせてくれる素敵で危険な物語。
さまよう1組のカップルを淡々と描いた作品。いわゆる"異国情緒"をこれでもかと匂わせてくれるオシャレ感あふれる素敵な世界。素敵さがよけいに残酷さを際立たせてる気がするのは、この物語がおもしろいからなんだろう。
江國香織さんの「十日間の死」
ある意味"運命の男"と過ごした女の日々を描いた作品。個人的には"運命の人"という言葉の定義が揺さぶられた。揺さぶられるのって気持ちいい。
佐藤正午さんの「夏の情婦」
主人公の男性が塾講師をやってるダメ男という設定。これが現実のぼくとだいぶ近いので、"キツイな"と思いながら読んだ(笑)
もちろんとってもおもしろい。ダメ男とダメ女の世界。
さすがの安定感。「あなたは〜と私に言った」という小学生が習う基本の文章を使い、"よくそんな書き方でおもしろくできるな"という作品。
平林たい子さんの「私は生きる」
病気の妻と看病する夫の描写。寝たきりの妻の女のさがを、美しさと醜さを同居させたなんとも言えない感じで描いてる。しんどくておもしろい物語。
チェーホフの「かわいい女」
終始穏やかな雰囲気なんだけど、読み終わると"この作品が一番残酷じゃね?"と思うすごい作品。女性の本質を暖かい視点で残酷に暴いてる。
☆ ☆ ☆
はじめて読む作者さんとの出会いもあって、とってもお得な本♪
ネット上のレビューであんまりおもしろくないって評価がたくさん目に入って一瞬あれ?って不安になったけど(笑)
ぼくはこれおもしろいと思う!
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