【読書感想】小川洋子さん著「博士の愛した数式」(本屋大賞受賞作)母子家庭や障害という不幸の中での、全然不幸じゃない素敵なコミュニケーション
第1回(2004年) 本屋大賞受賞
電子書籍化されている。
映画化もされている。
2時間くらいで読めるくらいの、短めの長編小説。
寝る前に少し読もうと思ったらのっけから惹きこまれてしまい、夜更かししての一気読みになってしまった…
家政婦の主人公とルートというあだ名の10歳の息子、80分しか記憶が持たない障害を持った老人数学博士、3人の心の触れ合いを描いた作品。
すごい。善人しか出てこない。というか人間の善の部分しか描かれてない。普通そんな設定だと甘っちょろくておもしろくない作品になりそうだけど、この本はめちゃくちゃおもしろい。
感動して涙が出るというような場面はないけど、終始じわじわと心温まる感じで、幸せな気分で読めた。登場人物はみんな金銭面や環境面で決して幸せといえる状況ではないけど、そういった物悲しさは全く感じられない。逆に、そうだからこそ"善"の部分を全力で出せるのかもしれない。
当然読後感は最高。
数学が一つの重要な要素として使われてるけど、テーマではないので数学が嫌いな人でも全然大丈夫。
文章は読みやすくて純文学的な小難しい雰囲気もない。
だけど小川洋子さんならではの静かで美しい世界はたっぷり味わえる。
主人公とその息子とのコミュニケーション
昔、雇い主にいじめられて泣いていると(泥棒の濡れ衣を着せられたり、用意した食事を目の前でごみ箱に捨てられたり、能無し呼ばわりされたり)、小さかったルートがよく慰めてくれた。
「ママは美人だから大丈夫だよ」
確信に満ちた口調でそう言った。それが彼にとっての、最上級の慰めの言葉だった。
「そうか…ママは美人なのね…」
「そうだよ。知らなかったの?」
わざと大げさにルートは驚いて見せ、そうしてまた、
「だから大丈夫なんだよ。美人なんだから」
と、繰り返した。泣くほど辛くないのに、ルートに慰めてもらいたいだけで、嘘泣きしたこともあった。彼はいつでも進んで、だまされた振りをしてくれた。
親子の静かで温かいやりとり。たまらなく気持ちいい。
雇い主である老人博士と主人公のコミュニケーション
したがって静かであることは最大級のほめ言葉でもあった。彼は気が向くとよく、台所で料理している私の姿を食卓から眺めていたが、餃子を作っている時は特に驚異の視線を注いだものだ。掌に皮を広げ、中身をのせ、ひだを四つ寄せながら包み、皿に並べる。たったこれだけの単純な繰り返しなのに、飽きもせず、最後の一個が完成するまで目を離そうとしなかった。あまりに彼が真剣で、時に感嘆のため息さえ漏らしたりするので、私は妙にくすぐったく、笑いをこらえるのに必死だった。
「さあ、できました」
皿一杯に行儀よく並んだ餃子を私が持ち上げると、博士は食卓の上で両手を組み、感じ入ったようにうなずきながら言った。
「ああ、なんて静かなんだ」
と。
ほとんど会話がないけど、なんとも言えない"善"と"善"の静かで幸せなコミュニケーションを感じる。ぶっちゃけうらやましい。
心温まる感じの本を読みたい方にはマジでオススメできる。寝る前に読み始めるのはマジでオススメできない。絶対夜更かしするハメになるから。
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