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【読書感想】角田光代さん著「対岸の彼女」だれかに肯定されたいと悩みながら一歩踏み出す素敵な物語

角田光代さん著「対岸の彼女

 

内容(「BOOK」データベースより)

専業主婦の小夜子は、ベンチャー企業の女社長、葵にスカウトされ、ハウスクリーニングの仕事を始めるが…。結婚する女、しない女、子供を持つ女、持たない女、それだけのことで、なぜ女どうし、わかりあえなくなるんだろう。多様化した現代を生きる女性の、友情と亀裂を描く傑作長編。第132回直木賞受賞作。 

 

 二人の女性が主人公。すごく乱暴に言うと「幼少期から暗い女性と、幼少期は暗かったけど今は明るい女性、その二人とも悩みながら生きている」そんなことを描いている物語。

 

ぼくは全編に渡って描かれている「悩みが解決しないまま生きている」姿にとても共感。「うんうん。つらいなあ。」という感じ。

描かれているのは女性だけど、男性のぼくでも十二分に共感できる。男性にも共通の普遍的な悩みが描かれているから。

 

「わかるなー、それ。私には子どもいないけど、結局さあ、私たちの世代って、ひとりぼっち恐怖症だと思わない?」

声のトーンをあげて葵はしゃべる。カウンターキッチンの小窓からのぞくと、葵は背伸びして頭上の棚から何か取り出している。

「ひとりぼっち恐怖症?」小夜子は訊き返した。

「そ。お友だちがいないと世界が終わる、って感じ、ない? 友達が多い子は明るい子、友達のいない子は暗い子、暗い子はいけない子。そんなふうに、だれかに思いこまされてんだよね。私もずっとそう。ずっとそう思ってた。世代とかじゃないのかな、世界の共通概念かなあ」 

 

「お金は(そんなに)なくていい」というメッセージはよく見るけど、「友達はいなくていい」というメッセージは少ないような気がする。

大人になってから友達なんてそうそうできるもんじゃない。少なくともぼくは社会人になってから友達は一人もできていない。そして独りで暮らしていると、それでいいのか?という悩みに襲われる。じゃあ友達つくるか!なんて思ってもそうそうできるもんじゃない。Facebookで一回会った人と友達になったって、それっきり会話はない。かろうじてつながってるだけで、とてもじゃないけど友達とは言えない。

こんなウジウジとした悩みが思い起こされる。

 

他者の価値観を物差しにしたいという欲求は、そうそう捨てられるものじゃない、ということが描かれてる箇所。

1ヶ月前。働こう、と決意したきっかけは、じつにささいなことだった。一枚のブラウスである。吉祥寺のデパートで、小夜子は一枚のブラウスが気に入って何気なく値段を見た。一万五千八百円だった。そのとき小夜子には、その値段が高いのか安いのか、さっぱりわからなかったのである。もちろん修二のYシャツに比べれば高い、月々の家計から捻出するには高い。けれど、三十五歳の女性が身につけるものとしてはどうなのか。

わからない、ということは思いのほかショックだった。すべてがつながっているように小夜子には思えた。母親たちのしがらみを避け公園を転々とすること、あかりが自分とそっくりにひとりで遊んでいること、ブラウスの平均値段を知らないことは、みなつながりあっているのではないか。働きはじめれば、ブラウスの平均値段もわかるだろう、公園選びで頭を悩ませることもなくなり、尖った声であかりを叱ることも減るのではないか。働きはじめれば ー それがすべての解決策のように小夜子には思えたのだった。

 

最初の方に書かれている場面。ぼくはこの部分から一気にこの本の世界に惹きこまれた。他者の価値観を把握したいという欲求。他者の価値観を把握すれば自分の悩みが全て解決するはずという安易な考え。冷静に考えれば、それでは解決しない。けど、冷静に考えたくない、安易に考えたい、解決策があると思い込みたい、そういう欲求。

ぼくにはそういう欲求がある。この欲求とのつきあい方をなんとかしたいと思っているけど、今のところなんともなってない。だからこういう小説の世界が好きなのかもしれない。

 

「そうだ、田村さん、異業種親睦会って名目の飲み会を月一でやってるんだけど、今度こない? 田村さんの歓迎会も兼ねるから。都合のいいときがあったら教えて」

<中略>

参加したがっている自分がいた。同い年で会社を経営する葵、肝っ玉かあさんに変身した中里典子・・・もっといろんな人を見てみたかった。言葉を交わしてみたかった。働くと決めたことは間違ってないと、だれかに強く肯定されたかった。

 

 

「だれかに肯定されたい」という欲求。だれかに肯定してもらわないと不安で仕方ない。そういうときに大事なのが家族や友達なんだろう。それでも解決しないから神様がいるのかもしれない。「あなたは生きていていい」と無条件に肯定してくれる他人。そんな他人が周りにいると幸せなんだろう。

 

ウジウジ悩んでも、なんだかんだ言って生きていく。がんばって生きていく。一歩踏み出す。

この本はそういう素敵な物語。一歩踏み出す感はグッと来る。 

 

 

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とりあえず…

今日は生きるつもり。

 

 

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