【読書感想】「都市の起源 古代の先進地域=西アジアを掘る」大昔から今みたいな都市があったんだ
「都市の起源 古代の先進地域=西アジアを掘る」
小泉 龍人 (著)
子供の頃「社会」があまり好きではなかった。中学で習った四大文明の中で最も興味をそそられずイメージが湧かなかった西アジアのメソポタミア文明。4つの中で一番古いんだから一番惹かれてもよさそうなのに。
やっぱりエジプトのピラミッドや中国の万里の長城のほうがインパクトがある。「大きい」というのは力がある。
大人になって歴史や宗教のことを知ると、なんだかんだ言って今の「イスラエル」とか「イラク」あたりの話が出てくる。歴史を遡るとそこらへんの話になっていく。
ということで、なじみがない西アジアについて書かれた本を読んでみることにした。
☆ ☆ ☆
読んで感じたのは、「大昔から今みたいな世の中だったんだなあ」ということ。
いろんな人々が共存して快適に生きるための仕組み。それが都市。
生活用水を設計し、人と物が流れるための道を設計し、人々をまとめるための政治的、経済的、宗教的なシンボル(神殿や宮殿)をつくる。
そして物流に便利な貨幣が使われる。
西アジアでは、リディア王国(約2600年前)で最古の銀貨が発明されたが、実はそれよりも2000年近く前に、リング・インゴットが秤量貨幣の祖型として利用されはじめていたのである。
<中略>
いずれも指輪状あるいはゼンマイ状を呈して、携帯に便利な形状である。
貨幣ってそんな昔からあったんだ。世の中の仕組みって昔からそんなに変わってないんだあと思う。
この本では「よそ者」が都市をつくるきっかけになったと言っている。
もともとウバイド期の社会は、祭祀により統合されながら、人々の暮らしが成り立っていた。そこでは格差のない人々の緩い結び付きがあり、血縁的なつながりの親族集団を単位として互いに協業し合っていた。やがてウバイド終末期になると、豊かな食を求めて集まってくる「よそ者」との共存において、異なる価値観の折り合いをつけるために、従来とは異なる仕組みが求められて、階層化が始まった。同時に、「よそ者」の活発化により、経済的な物流網が徐々に拡充されていき、ウルク中期後半までに都市的集落を結節点とする交易ネットワークが確立されることになる。
「格差のない人々の緩い結び付き」って聞くととっても魅力的だ。でも4000年前から格差のある都市が必要だったということは、格差のない社会はいわゆる「無理ゲー」ということなんだろう。今後の研究で「そもそも格差のない社会なんて最初から存在しなかった」なんて話になるかもしれない。
宗教は大昔から経済を動かすために必要だったらしい。
都市的な性格の強まるウルク後期までに、交易ネットワークにより集積していく富に支えられながら、世俗的な指導者はコミュニティを統治する合理的な仕組みを思いついた。施政者は、乾燥気候と洪水という厳しい環境で都市的集落を存続させるために、自然現象は神意によるものとして神を頂点に据えた秩序を創り出し、神殿を主役に見せかけて経済を動かすという着想を得た。
科学技術が発展して「神が人間をつくった」という考えがどうもありえなそうとなった現代。だからといって宗教が廃れるわけでもない現代。
宗教はこれからも人間が集団生活を営む上では絶対必要ということなんだろう。
この本の内容から外れるが、一般人にとって生きる苦しみをやわらげてくれるのは科学よりも宗教なんだと思う。「なぜ生きるのか」「生きていていいのか」「生きてても意味ないんじゃないか」「死んだほうがましなんじゃないか」こんな問いに応えてくれる何かが必要だ。その何かを務めることができるのが、今のところ宗教だ。そして今後もそうあり続けるのだろう。
この本で「へぇー」と思った豆知識的な内容。
贅沢空間の典型例として、バビロンの空中庭園があげられる。
ただ、バビロンの空中庭園は実在したかどうかはわかっていない。
ビールとならび、人気のあったのがワインである。一昔前まで、ワインよりもビールのほうが何となく古そうだとされてきた。だが、近年の研究成果によりその見方が逆転して、ワインのほうが数千年も古い歴史をもっていたことがわかってきている。
新しい本を読むと、こういう「へぇー」が味わえて楽しい。
西アジアは当分治安が悪くて旅行先としては不人気が続くんだろう。だから西アジアはあいかわらず「なじみのない地域」であり続けるんだろう。
せめてこういう本を読むことでなじんでいければと思う。
関連記事
とりあえず…
今日は生きるつもり。
ツイッターやってます。ブログ更新通知出してます。