【読書感想】西加奈子さん著「こうふく あかの」サラリーマンの努力を全力でディスってる感じがたまらない、幸福のあり方をぼんやり考えてしまう作品
西加奈子さん著「こうふく あかの」
短編というか中編というか、ちょうど芥川賞をとる作品くらいの長さ。短くて一気に読める。
39歳の普通の男が主人公。サラリーマンでそれなりに努力して"こうふく"を手に入れて、その状態を保っていたのに、突然妻が他の男の子供を身ごもったことを知らされる。
ガーン!
っていうところからはじまるお話。
そして一見なんのつながりもないプロレスの物語と交互に展開していく。なんで別々の物語が進行しているのかは読んでのお楽しみ♪
幸福ってどんなかたちだろう?
今までつくりあげた幸福って続けられるんだろうか?
今までつくりあげたと思ってたものは本当に幸福というものなんだろうか?
今まで想像すらしなかった別のかたちの幸福ってあるんじゃないのか?
そんなことをぼんやりと肌で感じさせてくれる。
主人公を一人称の「俺」で書いている。でも「俺」の視点になって物語を味わう感じではなく、第三者としての視点で味わう感じ。少なくともぼくはそうだった。
冒頭の、サラリーマンの努力を全力でディスってる感じがたまらない。(実際にはディスっているわけではない。あくまでぼくがそう感じたってこと。)
結婚して、十二年になる。俺は三十九歳、妻は三十四歳だ。貯金は有り余るということは無いが、万が一の我々を救ってくれるだろうほどにはある。<中略>順当に課長のポストをもらい、収入も今のところ安定している。同期の兎島が十数年係長止まり<中略>に対して「俺課長、なのにお前係長(笑)」的な蔑みの眼を向けることなどなく、時折飲みに行っては屈託なく、しかもなるべく兎島が遠慮せぬよう、彼が発する話よりもっと下品な、猥談や馬鹿話をするように心がけた。<中略>古参のオフィスレディがいる。<中略>急須に茶葉を入れているふたりを見ては「いつもすまないね」とねぎらいの声をかけ、間違っても「重力が」「遅れて」「寂しい」などという単語は口にしない。<中略>カラオケなどに行っても「俺、一番だけでいいから」と遠慮をする。十時頃には「年寄りはここらで」と退散、惜しまれていることを確認しつつ地下鉄へ、三段ほど降りた後思い出したように振り返り、「みんな、明日からまた、よろしく頼むな!」の笑顔を忘れない。奢る金は痛いことは痛いが、皆に「うちの課長、理想的な上司」と思わせ続けることを考えれば、安いものだ。
そしてこのあと家庭、いわゆるプライベート側での涙ぐましい努力の描写が続く。
いや〜、完全に身に覚えがあるわ(笑)
ぼくも会社のためという名の自分のために、自腹で部下を飲みに連れて行ってたし、途中で身を引いてたし、別れ際に「明日からよろしく!」って言ってたし。。。
プライベートのほうも、妻の実家側とうまくやっていく努力とか、完全に身に覚えがある…
はっきり書いておかないといけないのは…
作者は一切ディスることなく淡々と書いている。
読者のぼく個人は、毒を感じる。すご〜く皮肉を感じる。
ということだ。
これが文章の、小説の醍醐味。
読後感は「ふ〜ん」って感じ。これがまたクセものなんだな。
西加奈子さんの「窓の魚」という作品がある。これの読後感は「ふ〜ん」って感じだった。だけどずっとその作品の空気感が忘れられなくて、逆にどんどん鮮明に感じられてきて、結局「すげーおもしろいじゃん!」ってなった。
この作品もそうなりそうな予感がする。
"上下巻のようで、実は内容は違っていて、でもどこかで繋がっている"もう1冊「こうふく みどりの」という作品がある。こっちも読まなきゃ。
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