【読書感想】西加奈子さん著「こうふく みどりの」女性たちが不幸の上につくりだす幸福な場所、幸福はつくるものなんだと感じさせてくれる作品
西加奈子さん著「こうふく みどりの」
短めの長編小説。一気に読める。
14歳の少女を主人公にした青春文学と思いきや…ちょっと違う。というかそれもあるけどそれだけじゃないって感じ。
少女中心のメインの物語。そして一見なんのつながりもない標準語での独白みたいな物語と交互に展開していく。なんで別々の物語が進行しているのかは読んでのお楽しみ♪
メインの物語は関西弁で書かれている。ぼくは関西弁に馴染みはないけど、この作品では抵抗がないどころか、すごく魅力的に感じた。関西弁うらやましいと感じた。こんなやりとりがうらやましい。
「おう、緑やないけ!」
ほんで、声大きい。
「おっちゃんかぁ、おはよう。」
「おはようちゃうじゃろお前何しとんねやこんな時間に。学校はぁ、なんや創立記念日かなんかか、ちゃうわ沼田のガキランドセル背負って行っとったぞ。ちゃうわ、緑はもう中学生やな。なんやいじめられとんのか、おかあちゃんは知っとんのか。おばあちゃんは。」
どう答えてええんか、分からんわ。
おばあちゃん、お母さん、かなり年上の従姉妹、その従姉妹の娘(4歳)、主人公(14歳の女の子)
という女だけの家庭。ご近所さんたちがしょっちゅう家にあがっておしゃべりして長居する家。とっても幸せそうな空気感を描いている。読んでる途中では本気でうらやましいと思った。
でもその幸せそうな空気は最初からあったわけじゃなくて、不幸を経験した上でつくられたもの。そんなことが描かれている。結局「幸せ」は"ある"んじゃなくて"人がつくる"ものなんだなあとしみじみ思えた。
この作品はストーリーよりも文章そのものが味わい深い。例えばこれ。
そろそろ太陽が落ちていく時間や。雪は音を吸いとるいうけど、うちは夕方の太陽もそうやと思う。少しずつ姿を隠す代わり、昼間そこいら中にあったたくさんの音を、お土産に持っていってまう。音がどんどん減っていって、光もどんどん減っていって、それでうちらの心も、夜を迎える準備をする。静かな気持ちになって、それで、目ぇや耳や鼻以外を使う感覚を、思い出し始める。ああ、人を思う気持ちってこんなんやったんやとか、あの人はどないしてるやろうとか、心の中の出来事が増えてくる。夜はそれを知ってるから、その間中、うちらをそっとしておいてくれる。
ぎゅう、と眩しくなった。薄目を開けると、音の代わりに、太陽がオレンジを残していってる。
イイ!
なんか物語の世界に入り込んで読んでるときと違って、こうやって一部抜粋すると魅力が全然伝わらない気がしちゃうけど…
ぼくは「猫が喉をゴロゴロ」という表現に昔から違和感を持ってる。「ゴロゴロ」じゃなくて「グルグル」じゃないかとずっと思ってる。そしたらこの本に「ぐるぐる」って書いてあった!
白黒のブチ猫が擦り寄ってきた。喉を撫でてやると、ぐるぐると気持ち良さそうに鳴いた。
うれしかった。
この作品は色や音や匂いを絶妙な文章で表現してくれている。文章によって、言葉にできないハッとしたなんとも言えない感じをたくさんもらえる。
しかも、幸せはどこかにあるんじゃなくて自分がつくるものなんだということも感じさせてくれる。
読み終わって振り返ると、不幸をたくさん描いてるんだけど、読後感はいい。
純文学寄りの作品に抵抗がない方には文句なしで勧められる作品だ。
"上下巻のようで、実は内容は違っていて、でもどこかで繋がっている"もう1冊「こうふく あかの」という作品がある。こっちも抜群におもしろい。
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