【読書感想】中村文則さん著「世界の果て」(短編集)暗くてしんどい世界だけどなぜか元気づけられる
中村文則さん著「世界の果て」
内容(「BOOK」データベースより)
部屋に戻ると、見知らぬ犬が死んでいた―。「僕」は大きな犬の死体を自転車のカゴに詰め込み、犬を捨てる場所を求めて夜の街をさまよい歩く(「世界の果て」)。奇妙な状況におかれた、どこか「まともでない」人たち。彼らは自分自身の歪みと、どのように付き合っていくのか。ほの暗いユーモアも交えた、著者初の短篇集。
以下5つの話が入った短編集
1. 月の下の子供
2. ゴミ屋敷
3. 戦争日和
4. 夜のざわめき
5. 世界の果て
全部暗い! ひたすら暗い! 読むのしんどい!
でもおもしろかった。
5話とも一貫して、「現状から逃げたい」「現状を壊したい」「現状を終わらせたい」という苦しみの最中にある人間を描いている。しかもその苦しみは「一皮むける」とか「大人になる」とか「あきらめる」とかで解決する簡単なことじゃない。
こんな状態ってことだ。
「ゴミ屋敷」より
なぜこのような形状でこの構造物が立っていることができるのかも、わからなかった。土台の部分は錆び、構造物はより不安定になっていたが、そうであるからこそ持ちこたえているかのような、そんな気がしてならなかった。
「世界の果て」より
わからないが、しかし、私は人を殺したいとは思わなかった。よくそういった犯罪者が言うように、死刑になりたいなどとも思わなかった。それならば、富士の樹海に入る方に、魅力を感じた。樹海は砂漠などと共に、自分の行く先のイメージに、少なくとも刑務所より近いように思う。
この苦しんでる状態に共感できる。"苦しみ"だから読むのしんどいけど。
風景や時間軸がぐちゃぐちゃ(とびとび)になっているのが、すごくいい。かえってリアリティがある。実際悩んでるときは考えていることがぐちゃぐちゃだもん。
そして中村文則さんの文章の魅力。
読み始めてすぐに光景が想像できる。この段階ではまだそんな具体的に描写していない。そして読み進めるとその想像があっていて修正する必要がない。
たぶん読者のいろんな想像に適応できる文章なんだと思う。秘訣はさっぱりわからないけど、この感覚は読んでいて楽しい。
最後にぼくがとっても共感してしまった文章をご紹介。作品のテーマからするとちょっとしたアクセサリーのような部分なんだけど、「そうそう」って思った。
「夜のざわめき」より
「この間ね。職安行きました。職業安定所。あなたも、きっといつか他人事じゃなくなりますから。あんな陰気な場所はないですよ」
<中略>
「僕、営業もうやりたくないから、他の仕事って思ったんです。でも、求人、契約社員ばっかで。まあ微妙だけど仕方ないと思って、探したんですけどね、でも、なんつーか、難しいんですよ。ほら、僕、飽きっぽい性格じゃないですか。それに、このまま今の仕事だと、自分がどうなるか予想できるし。・・・うん、残業残業! 最近なんて、どっかから声とか聞こえるし」
<中略>
「そうしてると、営業、とか、事務、とか、サービス、土木、とかのパネルと同じ感じで、自殺、失踪、犯罪、とかのパネルが並んでるんですよ。ついに、国がそういうのまで管理し始めたんです。…
この人の感じ。ホントよくわかる。行き詰まりって感じ。
読後感は「しんどかった」なんだけど、一方で「なんか元気づけられたかも」という感覚もある。たぶん小説が持つ「共感」の力なんだと思う。
自分が弱っているときは、弱っている人を描いた小説のほうが癒やされる(救われる)こともある。
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