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【読書感想】小川洋子さん著「猫を抱いて象と泳ぐ」不思議な物語の世界にどっぷり浸れる、これぞ小説!これぞ文学!

小川洋子さん著「猫を抱いて象と泳ぐ」

 

内容(「BOOK」データベースより)

「大きくなること、それは悲劇である」。この箴言を胸に十一歳の身体のまま成長を止めた少年は、からくり人形を操りチェスを指すリトル・アリョーヒンとなる。盤面の海に無限の可能性を見出す彼は、いつしか「盤下の詩人」として奇跡のような棋譜を生み出す。静謐にして美しい、小川ワールドの到達点を示す傑作。 

  

不思議な物語の世界にどっぷり浸れる、これぞ小説!これぞ文学!っていう感じの作品。小川洋子さんの作品をいくつか読んでる方にとってはおなじみの小川洋子ワールド。そうでない方にとっては「なにこれ、すごい!」ってなるはず。

 

陽の当たらない世界でつつましく、正直に一生懸命生きる人間を描いている。その生き様が美しい。 

ホッとする喜びのような感情と、とても悲しい感情と両方が味わえる。読み終えた直後にこの両方を感じられるのはとても不思議でとても幸せな体験だと思う。

 

ぼくは小川洋子さんの作品に登場するつつましい女性が大好きだ。この作品に登場するのはこんな女性。

 

彼女はとても痩せていた。身体中どこにも不必要な厚みはなく、首も指もふくらはぎも彼が知っているどんな女の人より細く、そのうえシャワー室のタイルとよく似た薄水色のワンピースを着ていたので、黙って立っているとまた壁の中に吸い込まれてゆきそうに見えた。
<中略>
彼女は左の肩に、鳩を一羽載せていた。 

 

 おとなしくてやさしくて、誰かに寄り添うタイプ。献身的だけど自分を押し殺してるわけじゃなくて、それが彼女にとっての正直な生き方という感じ。彼女の発する言葉は部分的に引用するとなんともない内容だけど、物語の世界の中ではとても静かで美しい。そして、「そういう生き方も全然アリ」と思わせてくれる。

 

この作品はチェスが題材だ。ぼくはチェスは全く知らないし、似たようなゲームの将棋もやらないけど、全然問題なく楽しめた。深い世界が描かれている。

 

「君は言葉で説明できる、手に取って他の人に見せることができる目的のために、一度でもチェスを指したためしがあるのかね? 少なくとも、私にはそういう経験はない。金? 賞賛? 称号? そんなものがチェスの宇宙で何の役に立つ? 私はいつでも、チェスがしたいからチェスをする。それだけだ。にもかかわらず、チェスは無限のものを与えてくれる。君だってよく分かっているはずじゃないか」

 

「口のある者が口を開けば自分のことばかり。自分、自分、自分。一番大事なのはいつだって自分だ。しかし、チェスに自分など必要ないのだよ。チェス盤に現れ出ることは、人間の言葉では説明不可能。愚かな口で自分について語るなんて、せっかくのチェス盤に落書きするようなものだ」
老人はキャリーバッグを胸元まで引き寄せた。
「だから私は、君がうらやましい。君には自分がない。目の前にあるチェス盤に、ただ腰掛けている。リトル・アリョーヒンという仮の名前をもらって、ひたすら黙ったまま」

 

こんな感じで、単なる勝負事ではない世界だ。そして会話の内容も素敵だ。

 

非現実的なことがたくさん描かれているけど、この世界に浸っている間はとてもリアルだ。ありそうもない地下組織のような世界が描かれているけど、全然ありそうだと思えてしまう。

 

物語、小説、文学。そう呼ばれる素敵な世界がここにある。

 

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とりあえず…

今日は生きるつもり。

 

 

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