【読書感想】中村文則さん著「私の消滅」暗いけど眠気をぶっ飛ばすおもしろさ
中村文則さん著「私の消滅」
最近出版された中村文則さんの最新作。
やられた〜 おもしろすぎる!
前日寝つけなくて3時間しか寝れず、翌日1日仕事をした。
おかげで夜9時くらいか眠くてしょうがなかったんだけど、ちょっとだけと読み始めたら…
おもしろすぎて眠気がどこかに行ってしまい、約2時間の一気読み。
純文学とミステリーの融合と言っても、仕立てはかなりミステリー寄り。中村文則さんの初期の作品ほどは暗い感じはない。といっても暗いのは間違いない。
脳内情報を書き換えたりしてる精神科医たちの話。この本はあらすじを知っちゃうとおもしろさ台無しなので、そこを隠しつつちょっとだけ感想を。
脳科学の発展で、洗脳や幻覚などの神秘的な現象はわりと簡単に起こせることがわかってきた。おかげで描写されている精神科医たちの行動はめちゃくちゃリアリティを感じる。 こわい…
でも疑念が浮かんだ。彼女は、本当に僕のことが好きなのだろうか? 僕のあの催眠がきっかけで、こうなってるのでは? いや、そもそも、これは医師と患者の転移現象であるから、本当は彼女は僕のことが好きではないのでは? これは洗脳でないのだろうか。でもこれが恋愛でないなら、本当の恋愛とは何だろう?
人間は目でありのままを見てるわけじゃなくて、脳でつくったものを見てるらしい。そうなると、幽霊も幻覚も夢も、見た当人にとっては本当だ。そんなこと言われると「本当とは何だろう?」となってくる。本当の恋愛なんてあるんだろうか… マズい方向に行きそう(笑)
あの時の僕のしていたことは治療だろうか。脳の構造そのものへの挑戦に似た治療。違うだろう。僕はこの人生というもの、そのものに抵抗していたのだと思う。人はもっと静かに生きられると。たとえこの世界が残酷でも、僕達はやっていけるのだと。人生で不幸に見舞われたとしても、そんなものは消すことができるのだと。
中盤にポンと置かれてる文章。中村文則さんからのメッセージ(だとぼくは思ってる)。これがあるから暗くても最後まで読めるし、読後感も悪くないんだと思う。
残酷な世界とは?
ーー宮崎勤は暴力を受けていただろう? それを行った者達は、恐らく現在も幸福に暮らしているだろう。あの男の中で悪が伝播していた。本来全く関係ないはずの、宮崎への加害者が殺害された幼女たちと繋がる。宮崎の脳内の、あのような複雑さの中でね。この世界を別の視点から見れば、線の網と見ることができる。それぞれの悪が伝播し続ける。
繋がっている世界。善も伝播するけど悪も伝播する世界。誰が加害者で誰が被害者かは見る世界の広さで変わったりわからなくなったりする世界。そんな世界だと認めた上でがんばって生きる。それが作者のメッセージだ。
断言するのにはわけがある。
だってあとがきでこんなかっこいいこと書いてあるだもん。
読んでくれた全ての人達に感謝する。この世界は時に残酷ですが、共に生きましょう。
この文章だけ抜き出すとちょっとキザな感じがしちゃうけど、この物語を読み終えてこのあとがきを読むと、胸にじーんとくる。
「メッセージを伝えるためなら純文学にこだわらず、ミステリー要素だってなんだって使う」という意気込みが感じられる作品だ。
読むときは2時間確保してから本を開くのがおすすめ。たぶん途中でやめられないから。
関連記事