【読書感想】西加奈子さん著「ふる」イジられキャラと、イジられキャラ好きな人必読!? ぼくが女性ならこの本もっと楽しめたのに…
西加奈子さん著「ふる」
おもしろかった。そしておもしろさを味わいきれていない自分が悔しい。
この本を読むにあたっては、自分が男性であることが残念でならない。
女性だったら…天然キャラだったら…
もっと楽しめたはずなのに。。
西加奈子さんお得意の、関西弁での会話が心地いい物語。
日々の会話を隠し撮りして家で聴くという、少し変わった女性主人公の、幼少期から28歳までを描いた作品。主人公はこういうタイプ。
オチでいよう。軽口を叩かれる存在でいよう。そして自分は、嫉妬や恋愛の汚さから、出来るだけ離れていよう。
この文章にピンときた方、たぶんこの本おもしろいですよ。
自分が、"愛されキャラ"、"イジられキャラ"、"天然"、"ボケ"に属するタイプだと思っている方。
この本に共感できると思う。
自分はそういうタイプじゃないけど、そういうタイプの子と仲良くなることが多い方。
たぶんおもしろく読めると思う。
あと猫と暮らしたことのある方も楽しめると思う。この部分なんてぼくはめちゃくちゃ共感できた。
最初に思ったのは、尻の穴がこれほど丸出しなのだな、ということだった。道行く犬や通り過ぎる野良猫などもそうだったが、こんな近くで、堂々と見せてくれるものなのかということに、驚いた。
<中略>
二匹の肛門は、桃色をして可愛らしく、それが排便する場所であることを、忘れてしまうときもあった。
<中略>
もの言わないのは動物だからだが、もの言わない以上の深度で、猫のことが分からなかった。目がふたつあって、それは人間と一緒で、その目でこちらをじっと見るのだが、それが人間でいう「見ている」行為なのか、定かではなかったし、ふわりと跳躍する筋肉が、ぴくぴくと反応する細い髭が、肉球が、尻尾が、すべてが、不可解だった。
「そうそう」って感じ。
主人公が成長していく中で、初潮を迎えるシーンがある。結構重要なシーンの匂いがプンプン漂ってるんだけど、なんせ全くわからない。残念…
幼少期を描いた部分でめちゃくちゃ共感できた部分があった。それがこれ。
今までずっと、自分の意志を伝える前に、物事が進んでいた。一人っ子だったことも関係しているのかもしれないが、何かを食べたい、と訴える前に、美味しいお菓子やつややかな果物をもらえたし、トイレに行きたいと伝える前に、「おしっこしたくない?」と、聞いてもらえた。
望む前に与えられる生活が続き、いつしか花しすは、望むことをやめた。自分の希望や願望を、口に出すことが、どこかいけないこと、はしたないことのように思えた。自分の意見を言わず、大人しくしておけば、大人たちが何らかのことはしてくれる、そう思えた。
そしてそれが、子どもらしくない態度であることは、幼い花しすにも分かっていた。「あれがしたい」「これがほしい」と駄々をこねることが、ときに大人たちを喜ばせることも、分かっていた。だが花しすには、どうしても出来なかった。
そもそも、自分の願望というものを考えることが、花しすにはなかったのだ。大人や、他の誰かが与えてくれるものの中に、自分の望むものが、必ずあるのだと、思っていた。
幼いころに、"自分の願望を考えることがない"という感じ。ぼくもあった。
年齢的に大人になった今も、これがあるような気がする。そんなことを考えるとちょっとコワくなってくるので、すぐ頭から追いやっちゃうけど。
登場人物にもちろん男性もいるけど、男性の描写に力を入れずに女性の描写に徹底的に力を入れている。共感しきれないもどかしさがずっとつきまとった。けど最後までおもしろく読んだ。
共感しきれないのに途中で放り投げることなく最後までおもしろく読めたってことは、共感できる人はそうとうおもしろく読めるってことだと思う。
悔しいなあ〜
最後に西加奈子さんの天才的な文章を紹介。
冷蔵庫を開けると、以前買った六本入りのビールが、まだ三本も残っていた。よっしゃ、と声に出し、花しすは厳かな様子でプルタブを開けた。ぷしゅ、と良い音がして、足に降りていた白いものが、今度はまた、首まで登ってきた。
一口飲むと、叫びだしたくなるくらい美味しかった。季節問わず美味しい、このビールという飲み物はなんだ、天才か、と思う。
「天才か。」
声に出す。十代の頃、これなしに過ごしていた自分が信じられなかった。ファンタもサイダーも阿呆ほど美味しいが、天才のレベルではない。
今、ビール飲みたくなったでしょ?
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