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【読書感想】辻仁成さん著「海峡の光」(芥川賞受賞作)元いじめられっ子が立場逆転する話 根源的な人間の苦悩にとっても共感した

辻仁成さん著「海峡の光」(芥川賞受賞作) 

 

読後直後の感想は「パーフェクト!」

すごくおもしろかった。

 

元いじめられっ子で刑務所看守になった主人公。受刑者として昔主人公をいじめてた張本人が入所してきた。さあどうなる?

という話。

 

主人公の視点で主人公の心の苦悩を描いている。しかし、主人公だけでなく他の登場人物それぞれの苦悩も感じられて、人間全般の根源的な苦悩を感じられて共感できる作品。

 

読み始めると、「この先どう展開するの?」とワクワクした気持ちになり、中盤くらいからは「この分量で終わっちゃうの。残念。もっと広げてほしいほしいなあ。」って感じだった。

 

辻仁成さんの作品を読むのは3冊目。この方の文章は見た感じではオーソドックスなんだけど、なんだかヒリヒリする。"苦悩"がせまってくる感じ。共感できる作品は内容が暗くても楽しい。 

 

個人的によかった部分を引用でご紹介。

 

主人公は元々連絡船の職員だったけど、とっとと刑務所看守に転職してるという前提。

大半の船員は最後の瞬間まで連絡船で生きることに誇りを持っていた。精一杯努力した者を新会社も行政も見捨てるわけがない、と考えることで、彼は不安な今を乗り越えようとしていた。

 

 ぼく自身、傾きかけた会社に勤めていて、倒産確定前に転職した経験がある。ぼくも上記のような思いもあったし、実際本気で信じて転職をしなかった人たちもたくさんいた(結局その会社は倒産した)。だからすごく共感できる。"〜と考えることで不安な今を乗り越えようとする"っていうのがドンピシャな表現だと思う。

 

生まれた時から、刑務官という職業についた現在まで、この砂州の内側でずっと生きてきた。そこに澱む因襲やしがらみや掟を破りたいという衝動に駆られていた。機関士に殴られたことも一つのきっかけかもしれない。消化試合のような人生に気が滅入っていた。

 

"消化試合のような人生に気が滅入る" ってめちゃくちゃ共感できてしまう…

 

時々私は新入調の最中や、訓練の一瞬に、受刑者たちが自分よりもより広い世界で生きてきたような気がして怯むことがあった。〈中略〉日常を逸脱して、社会のルールを踏み外した彼らの無謀と謀叛に、道徳に沿って生きてきた自分には到底真似の出来ない無軌道な野生が宿っているような気がした。〈中略〉常識の中でしか世界を把握できないでいた自分が、彼らの何分の一も或いは何十分の一も世間に媚びた存在に思えてしまうのは何故なのか。この愚かな、到底間違えているとしか言いようのない妄念が、自分の人間の弱さから来ていることを思い知れば知るほど、私はいっそう小さくなり、制服や制帽や手錠の権威の影に潜んで自分を正当化させるしかなかった。

 

この感覚も「まさに!」って感じ。ホントに共感できる文章。

 

〈前略〉ずっとこの砂州の街から出たことがなかった。海に挟まれたこの街を狭いと思ったことはないが、いい加減に息苦しいと思うようになっていた。どこに隠れても、古傷を舐め合ったかつての知り合いと繋がってしまい、新しい発見はなかった。〈中略〉九州や四国には、自分のことを知った人間はまずいない。そんな未知の場所で妻や子や母から自分を切り離して生きてみる。そうすればこの肉体の内側で種火のようにいつまでも消えずに燻りつづけている焦燥の炎を吹き消すことができるのではあるまいか、とまるで反抗盛りの高校生のように自問自答しては、同時にその愚かさに呆れ果ててまた小路を見つめた。〈中略〉行方をくらますことができないならせめて自分という殻を人に知られず脱ぎ捨てて、もう一つ別の次元にこっそり置いてみることはできまいか。

 

 ぼく自身、半年前に実家に戻ってきて、実家付近の世界の"居心地の悪さ"を感じている。もちろん地元にいることの良さもあるけど、つらさもある。多くの人がそう感じてると思う。そのつらさから逃げられないかと悪あがきをして苦悩する感じにとっても共感。

 

 

引用が長い。今回引用してみて改めて気づいたのは、辻仁成さんの魅力は文章のごく短い部分ではなくて、半ページくらいの長さ全体で魅力を醸し出してるってこと。 

 

 ぼくは、子供の頃にいじめられた経験も、逆にいじめた経験もない。そういう経験がある人は、ぼくよりもっとこの作品を楽しめるかもしれない。でも描いているのは根源的な人間の苦悩だから、だれでも楽しめると思う。

 

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とりあえず…

今日は生きるつもり。

 

 

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