【読書感想】上田岳弘さん著「太陽・惑星」(新潮新人賞受賞作)おもしろいプラス不思議な力を持ったSF文学
上田岳弘さん著「太陽・惑星」
新潮新人賞受賞作
三島由紀夫賞候補作
こちらのブログで知り、読みたくなった。早速読んでみた。
新潮新人賞受賞作の中編「太陽」ともう1つ別の中編「惑星」が入ってる本。
内容(「BOOK」データベースより)
アフリカの赤ちゃん工場、新宿のデリヘル、パリの蚤の市、インドの湖畔。地球上の様々な出来事が交錯し、飽くなき欲望の果て不老不死を実現した人類が、考えうるすべての経験をし尽くしたとき、太陽による錬金術が完成した。三島賞選考会を沸かせた新潮新人賞受賞作「太陽」と、対をなす衝撃作「惑星」からなるデビュー小説集!
「太陽」はホントおもしろかった。
未来に不死の人間が登場するというSF。この設定自体はSFの定番だけど、この小説のおもしろさはその設定じゃない。
登場人物を純文学風の丁寧な描き方をし、"生きづらさ"を表現している。
少なくともぼくはそう感じた。
そこがすごく共感できておもしろかった。
時系列が入り組んだ構成になってるんだけど、不思議と自然に感じられて「あれ?」って戻ったりすることはほとんどなく、すんなりこの本の世界に入ったまま一気に読めた。映画マトリックスのようなテーマが好きな方は楽しめると思う。
本筋のネタバレを避けて、部分的におもしろかったところをご紹介。
冒頭の、登場人物の一人(春日晴臣)がデリヘル嬢を呼んだシーン
<前略>若いのに少し垂れ気味だ。<中略>でもまあいい、なんにせよ顔は非常に好みなのだから、と気を取り直して春日晴臣は女性の手を引っ張りシャワールームに入った。春日晴臣はここでさらに興醒めな事実に気づく。<中略>女性の左手首にピンク色の隆起が見える。おいおい、と春日晴臣は思う。彼はリストカット跡のある女性は苦手なのだった。<中略>女性の顔を観察する内、またしても興醒めな事実に気づく。なんだよ、整形かよ。<中略>これ以上気勢をそがれたくない春日晴臣は一度目を瞑り、それからゆっくり開くと、もう観察するのを止めることにして、ただ女の感触を楽しむことに決めた。下手に顔が好みであったから期待してしまっただけだ。整形だろうが、胸が多少垂れていようが、関係ない。トータルで考えると十分当たりといえる女じゃないか。
すばらしく共感できてしまう描写。この気持ちホントよくわかるわ〜
世の大半の成人男性が心の中で共感するはず。黙ってるだろうけど。
倫理的な永遠のテーマの1つ。
売ることの責任は甘んじて受けてもいいが、売れることの責任は断じて俺にはない。
売り物が何なのかを言っちゃうとつまらないので伏せとく。ビビッときた文章。一般的に悪いとされるモノの販売において、この"売れることの責任"って難しい。これについてぼくは前からボンヤリ思っていた。結論は出ないけど…
大学の経営リストラについて書かれてるシーン
そのような腰抜けどもが、と心の中で吐き捨てる学部長だったが、価値なしとした業務に従事した者の評価は容赦なく下げるつもりでいるのだから、始末におえない。サディスティックな性向を持つ彼は、右に行こうが左に行こうが、どちらにも行きかねて立ち往生しようが、どんな態度をとっても難儀する環境を作り、他人をそこに追い込むことを好むのだった。
ちょっとこれだけだと引用が少なくて伝わらないだろうけど、めちゃくちゃリアリティを感じるリストラ。ぼくサラリーマンのときこういう人見たことあるもん。
こんなふうに、人間の営みのいろいろな部分を描いてて、その部分ごとに共感して楽しめる。「これからどう進むのよ?」っていう、SF小説としての楽しみもある。
人間の負の部分をたくさん描いてくれてるおかげなのか、生きづらさを感じてるぼくの心が少し軽くなった。
おもしろいプラス不思議な力を持った小説。
もう1話の「惑星」は、時間軸がめちゃくちゃ(もちろんわざと)で、登場人物がカタカナ(外国人) で覚えづらく、前半は結構読み返しが多くてしんどかったけど、後半めっちゃおもしろい。前半でくじけなくてよかった。
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