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【読書感想】ミシェル・ウェルベック「プラットフォーム」お金があってもなくても苦しい…成熟した資本主義社会での一般人の生きづらさがこれでもかと描かれている作品

ミシェル・ウェルベック「プラットフォーム」

フランス文学。2001年刊行。日本では2002年初版。

最近文庫化、電子書籍化されてる。

Kindle楽天、honto、3つとも電子書籍がある。 

 

ミシェル・ウェルペック読むの4冊目だけど、これもおもしろかった! 

イスラム原理主義者によるテロが作品に描かれている。(もちろんフィクション。この作品は小説だ。)本国での刊行と同時にニューヨーク同時多発テロが起こったため、スキャンダラスな形で騒がれたそうだ。

でもこの作品のテーマ、魅力はそこじゃない。

 

☆ ☆ ☆

 

成熟した資本主義社会での一般人の生きづらさがこれでもかと描かれている。それがこの作品のテーマ、魅力。

登場人物は高給取りのサラリーマンだったり公務員だったり親の財産を受け継いだりと比較的裕福だ。だけど内面では裕福でない人と同じように苦しんでいる。

 

僕は父がベッドにネタきりになったときのことを思い出した。
<中略>
一度、父から聞かされたことがある。スポーツを必死にやっていなかったら、どうなっていたかわからない。スポーツをするのは頭をぼうっとさせるため、なにも考えないようにするためだ。つまり親父は成功したのだ。僕は納得した。親父は人間の条件について真の疑問を感じることなく、人生を全うすることに成功した。

 

人生を苦しまずに全うするためには、頭をぼうっとさせないといけない。さらに具体的に言うとこうだ。

 

文化というのは、人が生きていて不幸を感じるときに代償物として必要になるもののように思える。文化をもっと別のイメージ、たとえば幸せの真っただ中で増大する祝賀や叙情と結び付けることは可能だろう。しかし確信はない。机上の空論のように思える。

 

音楽や文学やSNSなどは、まさに"不幸を感じるときに代償物として必要になるもの"。ぼくにはとてもしっくりきた。

 

目下の問題はなにか読むものを探さなくてはならないということだ。読書のない生活は危険だ。人生だけで満足しなくてはならなくなる。それは危険を冒さざるをえぬ状況をもたらすかもしれない。

 

ぼくは読書で救われていると感じているので、この文章にはガツンと来た。「そうそう!」って感じ。

 

 

苦しくても生きていくしかない。でも苦しいからこんなことを考えてしまう。

 

なにしろ生きていかなくてはならないのだ。人と関わりあっていかなくてはならないのだ。僕はあまりにも緊張している。あまりにも長くそうして生きてきた。本来はアフターファイブに活動したり、バドミントンをやったり、合唱団に入ったり、なにかするべきだったのだろう。僕の記憶に残っている女性は、要するにセックスをした女性だけだ。それだって無視できない。人が思い出をつくるのは、死ぬとき少しでも寂しくないようになのだ。こういうものの考え方はいけない。「前向きに考えるんだ」僕はかっとなってつぶやいた。「ものの見方を変えよう」僕はゆっくり岸に向かって平泳ぎを始め〜 

 

 めちゃくちゃ共感できる。こんなことをウジウジ考えてしまっている。きっとぼくだけじゃなくて多くの方々がこんなことを考えているんだろうけど…

 

 

お金があってもなくても苦しい。作品全体を通して描いてくれているけど、一箇所それをバサッと書いてくれている箇所がある。

 

彼はまだ比較的若く、ハンサムで、間違いなくリッチだ。そうしたことは生きるためのたいした力にはならない。そう気づいて、僕は慄然とした。しかし少なくとも他人の欲望をかきたてる材料にはなる。

 

お金を持っていない側の人間としては、ある意味励まされる。"みんな苦しんでるんだ”と思えるから。自分だけじゃないと思えるのは救いになる。だから、ミシェル・ウェルペックは本国で中流以下の人々に人気があるのだろう。

 

訳者あとがきからの引用

彼は一般人、庶民、凡人なのだ。ウェルベックは一般人の苦痛、曖昧で微妙な、形にしにくい苦痛を描き出す。そして(ここが肝心なのだが)余計な味付けをしない。
<中略>
事実、フランスでウェルベックを熱狂的(狂信的でさえある)に支持しているのは、インテリ層ではない。中流階級の、いわゆる市井の人々だ。<中略>日本であれば「うだつのあがらない」という形容詞がつくような、あるいは「オヤジ」呼ばわりされるかもしれない人々が、彼の小説に共感している。

 

結局、ミシェル・ウェルペックの魅力は、

 

"みんな黙ってるけど、こういうことウジウジ考えてるよね、ほんとはこうしたいよね、ぼくがはっきり書いちゃうよ"

 

ということなんだろうと思う。

 

ぼくにとって、ミシェル・ウェルペックは完全にお気に入りの作家になった。

 

 

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とりあえず…

今日は生きるつもり。

 

 

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