【読書感想】西加奈子さん著「しずく」大人になってしまった切なさを描いた、だけどしんどくない読後感の短編集
西加奈子さん著「しずく」
以下6つの話が入った短編集
1. ランドセル
2. 灰皿
3. 木蓮
4. 影
5. しずく
6.シャワーキャップ
全部おもしろかった。
純文学な匂いプンプンだけど読みやすい。
1,3,4,6は、大人になってしまったけど、でもなりきれていないような女性の内面を描いてる。
3.「木蓮」より
三十四歳。それは、もちろん初婚の、なんの問題もない男の人と出会って結婚したかったが、仕事と合コンと酒にかまけて家事もろくに出来ず、笑うと不吉な予感のように皺が出来るようになった今となっては、バツイチでも子持ちでも、文句は言えない。子供は前妻が育てているというし、収入もあるし、彼を捕まえておかなくては後が無いという焦りから、私は相当、無理をしていた。
ピンときた方いらっしゃいます?
付き合いだしてからも、私の努力は終わらなかった。「家庭的な雰囲気が好きだ」と彼が言えば、やれ煮物だ味噌汁だを料理本と首っ引きで作り、作りなれているフリをすることに腐心した。酒を飲んで興が乗ったときは、「私、子供好きなんだー」という嘘のアピールをし、半年に一度干すか干さないかだった布団なのに、天気のいい日は彼を起こし、「もう、お日様がこんなに照ってるときは、お布団干したいのっ!」と優しく彼を叱り、少しだけ所帯くささを匂わせた。
さらにピンときた方は読んだほうがいいかも。
もう、ひとりに戻りたくない。世間的に素敵な恋人を手に入れたら、手放したくない。自分を曲げてでも! 曲がりすぎて、違う形になっても!
でも、無理だ。ああ、無理だ。
女性ってコワい?
ここからは男性のぼくもチクリときた文章。
私だって順調な人生を歩んでいたら、マリくらいの年の子のひとりやふたり、いたかもしれない。そして今のように、電車に揺られて、動物園に出かけていたかもしれない。人生を間違った、とは思わないが、もう少し何か、すべきだったのではないか。
これ、共感できる。人生を間違えたとまでは思わないけど、なんかもっとできたんじゃないかな?という漠然とした思いはちょいちょい出てくる。すぐ打ち消すようにしてるけど。
4.「影」より
もう取り繕うのはやめよう、一人になったのだ、ありのままの自分でいようと思い、最初に選んだのが、この島だった。でも私は過去にからめ取られ、結局、また自分の影のような頼りない感情を持て余している。島の子供たちのように、黒くて、確実で、屈託のない、何者かになれたら。
6. 「シャワーキャップ」より
母のようになりたい、と思ったことは無い。はずだ。そして、誰かに甘えたいと思ったことも、無いはずだった。ただ、彼女のように、考える前に口をついて出る、というような、体の真実が欲しかった。
だいぶ共感できる。取り繕うことなく素直に正直に生きようとしてるけど、なかなかうまくいかない。そして素直に正直に生きている子どもや動物に対して、ついつい「いいな〜」と思ってしまう。それじゃダメなんだけど…
☆ ☆ ☆
5.「しずく」は、この本の中では一風変わった作風。
猫の目線で大人の人間の様を描いている。
時が流れて仕事が忙しくなっていくとだんだん生活が変わっていってしまう切なさ。
そういう時の流れによる変化を当たり前に受け止める猫。
猫はすぐ忘れる動物だからどんな変化も受け止められる。
記憶できないから時間の概念がない。
でも、記憶が全くないわけじゃない。
でも、時々、胸の奥の奥の奥、お腹よりももっと奥の方で、何かチクリと、トゲが刺さったような、なんだか妙な気分になることがありました。もしかして、私は、こうやってひとりで眠っては、いなかったのではないかしら?
大人の人間だって、忘れてたことがちゃんとではなくなんとくなく思い出されて、何か引っかかってチクリとすることがある。
ぼくはそういうとき、それ以上思い出したくないと思っちゃうけど。
☆ ☆ ☆
純文学的な小説を読むと、みんなそれなりに苦しんで生きてるんだと思えてホッとする。それでいいのか微妙だけど…
でも読んでる間と読み終えた直後が楽しいから、それでいいんだと思うことにしてる。
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